随想・雑感 植物性代替肉についての私の道聴塗説

植物性代替肉についての私の道聴塗説

前理事 村本 光二

食肉文化を築いてきた欧米では、地球環境問題と食生活の関係に強い関心がもたれ、環境負荷の大きな動物性食品を減らし、植物性食品を増やそうとする動きが活発であるようです。さらに生活習慣病と肉食との関連や、動物福祉への問題意識から、大豆などの植物性たん白質を原料に用いた代替肉の市場が毎年10%以上の増加率で市場を広げているとのデータもあります。とくに2010年前後に設立された米国ビヨンド・ミート社とインポッシブル・フーズ社のバーガー・パテは、それまでの大豆ミートやベジタリアン向けのベジバーガーよりも格段に味・香り・食感が本物の肉に近いと注目されました。植物性代替肉は通常、食肉に比べて低カロリーであり、食物繊維とミネラルを多く含みながらもコレステロールを含まない特徴があり、さらに豆類がもつ多様な健康機能性は、代替肉においても発揮することが期待できます。しかし、食肉を好む消費者をもターゲットにしたウルトラプロセスされたものでは、飽和脂肪酸や食塩の含有量が高く、高カロリーとなることが指摘されています。

植物性たん白質を原料にする代替肉の2020年における世界市場は食肉市場の1%に過ぎませんが、今後拡大すると予測されています。代替肉市場は、ヨーロッパと北米がそれぞれ52%と27%で過半を占め、アジア太平洋12%、中南米6%、中近東・アフリカ4%という報告があります(F.Boukid,2021)。今後の市場形成には、持続可能で健康的な食品としての植物性代替肉を求めるフレキシタリアンやセミベジタリアンの動向がカギを握ると考えられています。欧米のビーガン・ベジタリアンは人口の数%~10%に増加しており、英国ではフレキシタリアンが人口の20%であるそうです(J.He等,2020)。肉食を堅持しようとしている人たちは味や栄養性へのこだわりが強く、一方、フレキシタリアンは健康や環境、倫理的な観点から肉食を減らしたいと考えており、この層では製品の外観や味を食肉に近づけることによって購買意欲を刺激することが可能であるといわれています。

欧米では、植物性代替肉に「ステーキ」や「ソーセージ」など、食肉製品と紛う名称を用いることへの是非が議論されているそうですが、すでに多くの消費者は植物性代替肉と食肉製品を混同してはいないといわれています。同じ価格であれば、消費者の72%が食肉、16%が植物性代替肉、5%が培養肉を選択するとの調査結果もあり、将来の市場では植物性代替肉は21~23%、培養肉は5~11%に達するとの予測もみられます(E.J.vanLoo等,2020)。

欧米における植物性代替肉のブームに比べると我が国のブームの熱量は低いともいわれます。理由としては、日本人の一人当たりの食肉消費が欧米の三分の一から四分の一であり、かつ欧米ほど肥満人口が多くない日本では、健康の観点から食肉を避けて代替肉を選択する人は多くないことなどがあげられます。もちろん、食品売り場には数多くの大豆ミート商品が並んでおり、企業の研究開発力の高さは疑う余地はありません。当然、我が国独自の食文化をふまえ、日々、新しい技術と製品の開発に取り組まれているものと想像します。

ある調査(窪田等、2023)によれば、対象者の約50%が植物性代替肉を認知しており、約30%が「喫食経験あり」と回答しています。そして調査結果は、消費者には食肉の味・食感・香り・栄養価値を評価すると同時に、環境や動物福祉などの社会的問題をふまえたうえで植物性代替肉の価値を評価する層があると指摘し、代替品としての位置づけではなく、SDGsの一環として、新しいジャンルの食品としての価値化を提案しています。そのためには食習慣の形成と長期的な視点が必要であり、まずは目に触れたり、植物肉を使用した料理を試食する機会を増やして、「新奇食品への忌避」「食肉の味へのこだわり」「新食品技術への忌避」を緩和することが必要であると述べています。別の調査(小濱・甲斐田、2023)でも、代替肉を利用しない理由として、「価格」「食習慣の欠如」「調理の不慣れ」「安全性への不安」などがあげられ、時間をかけた取り組みが有効であろうとまとめています。また碩学の廣塚氏(2019)はすでに時報第22号において、「組織状大豆たん白質(TVP)を素材とした料理の美味しさは消費者から高い評価を受けており、TVPを肉の代替ではなく、独立した新しい食品素材にする研究開発や、それを活かせるメニューの開発が必要である」と述べておられます。

このような私の道聴塗説から、植物性たん白質資源のさらなる活用を目指し、調理・風味・加工・物性などに関する研究に対して当財団が助成を行っていることは的を射たものであり、研究成果が食品素材のさらなる展開に活かされることを切に希望しています。

〈東北大学名誉教授〉

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