随想・雑感 退任するにあたり

退任するにあたり

前常務理事 前田 裕一

私は2003年度から選考委員になり、2007年度から理事を拝命しており、約19年間に亘り財団の運営に携わってきました。何とか勤めあげることができたのは、ひとえに財団に関わる先生方や関係者のご協力のお陰です。ここに改めて心よりお礼申し上げます。

当財団は、前身である「大豆たん白質栄養研究会」が1979年に設立されて以来、今年で早43年になります。この研究会は、故西村政太郎名誉理事長の熱意から、徳島大学医学部の故井上五郎先生をはじめとする諸先生方の御尽力により設立されたものです。当初は大豆たん白質の栄養生理機能の解明から始まりましたが、先生方の貴重な研究により大豆たん白質の優れた生理機能が明らかとなりました。それを受けて1991年には助成する研究対象を大豆たん白質に限定せず、大豆に含まれる各種成分や育種分野まで広げるべく、団体の名称を「大豆たん白質研究会」と改称しました。また1997年には法人化され「財団法人不二たん白質研究振興財団」となり、 2012年には内閣府より認定を受け「公益財団法人不二たん白質研究振興財団」に移行しました。その後、当財団の研究助成は、食文化・食行動に関する分野まで広がりました。

一方、ご存じのように世界は2015年9月の国連サミットで採択された17件の開発目標であるSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)に向かって動いています。特に人口増加による食糧問題や地球温暖化への対策は喫緊の課題であり、世界全体で取り組む必要があります。こうした課題に対する有効な解決策として、植物性食素材の有効利用が挙げられます。植物性の食素材は動物性に比べて生産段階におけるエネルギー効率が格段に良く、地球温暖化ガスの排出量も少ない事が報告されています。特に食糧問題として不足が懸念されているのは、3大栄養素の中ではたん白質です。近年、欧米を中心として肉、乳や卵のたん白質を植物性たん白質や醗酵・培養技術等を利用した新規たん白質で代替する開発が進められています。

そこで、当財団もサステナブルなたん白質素材の利用と開発と言う観点から、これまでの大豆たん白質の領域に加え新たに第二研究領域を設け、大豆以外の植物性たん白質、及び醗酵・培養等による新規たん白質に関する研究にも助成することにしました。また、本年度からオランダのワーゲニンゲン大学のCostas Nikiforidis先生に選考委員になって頂き、2023年度から海外にも研究助成するように進めています。海外と言っても先ずは募集地域をオランダに限定し、研究分野もたん白質をより美味しく食べるための食品加工や物性に限定して募集します。

サステナブルな食糧の開発や利用が不可欠となる時代を迎えるにあたり、生産効率が良くしかも健康に良い大豆たん白質の機能研究や、美味しい食品に加工する技術の研究を助成する本財団の意義は、益々重要になると確信しています。これらのことを考えると、この財団の設立に御尽力頂いた諸先輩方の先見性に改めて頭が下がる思いがします。まだまだこれからですが、この財団がSDGsの実現に繋がる研究により多くの助成をすることにより、その成果がより大きな社会貢献になることを期待しています。

〈元 不二製油グループ本社株式会社取締役〉

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