随想・雑感 大豆の機能性研究推進によるSDGsの目標達成

大豆の機能性研究推進によるSDGsの目標達成

評議員 津志田 藤二郎

いつの時代でも、食と健康を切り離すことはできないと思っています。1991年に「特定保健用食品制度(トクホ)」が世界に先駆けて日本に生まれ、「医食同源」に類する言葉は世界各国に古くからあったものの、そのことを科学的視点から具現化する動きが、このトクホを契機としてこれほと速やかに世界に広がるとは思ってもいませんでした。台湾や韓国、中国などの近隣諸国は、直ぐに同様の制度を採用しましたし、米国では1990年に成立した栄養表示教育法によるヘルスクレーム制度を1994年から完全実施し、1999年には「大豆たんぱく質による環状動脈心疾患リスクの低減」を追加しました。簡略化すると、1日に大豆たんぱく質25gを含有する食事をすると心疾患のリスクを低減する可能性があるという疾病予防に踏み込んだ、トクホを超える内容だったので大変驚きましたが、背中を押されているような嬉しさもありました。このヘルスクレームについて2018年には残念ながらSSA(Significant Scientific Agreement)から削除されることになりましたが、大豆たんぱく質のコレステロール低減作用等については、日本やEUを始め多くの国で認可されていますし、健康に寄与する食成分であることに変わりはありません。トクホで認可されている大豆の機能性としては、このコレステロール低減作用(大豆たんぱく質)の他に整腸作用(大豆たんぱく質、大豆オリゴ糖)、血圧上昇抑制作用(大豆ペプチド)、骨密度・骨強度を高める作用(大豆イソフラボン)などがありますし、また大豆を原材料名とする機能性表示食品は令和4年7月14日現在170件にも及んでいます。

このような大豆の健康機能に関する研究の進展には、昭和54年(1979年)に不二製油株式会社の後援により設立された「大豆たんぱく質栄養研究会」やその後改称された「大豆たんぱく質研究会」、そして現在の「不二たん白質研究振興財団」の研究助成が大きな役割を果たしており、私自身も評議員として関与できたことを有難く光栄なことだと感じています。

これまでに実用化された食品の機能性研究の多くは生活習慣病予防に関わるものですが、2019年12月末から始まった新型コロナウイルス感染症がパンデミックとなり、2年半を経過した今でもまだ終息の見通しを持てない現実を目の当たりにし、これまでの機能性研究の中に、パンデミックの終息に貢献できる研究成果があるのではないかとの期待が膨らみました。例えば、イソフラボンを始めとするフラボノイドは、新型コロナウイルスがヒト細胞に感染する際に必要とするプロテアーゼ(Mpro、3CLpro)の阻害作用を示すとのことですし、また助成研究ではイソフラボンの抗炎症作用とそのメカニズム解明研究が活発に行われていますので、サイトカインストームの抑制に有効なのではないかなどと期待します。でも実は、生活習慣病が「新型コロナの重傷化リスク」そのもので、日本は世界一の高齢者社会でありながら新型コロナ感染に伴う死亡率が極めて低い要因の一つとして、大豆等の機能性研究成果の普及があったのではないか感じています。この新型コロナパンデミックを機会に、今後新たに出現する危害等の環境要因への適応・抵抗力等に視点を置き、これまでの研究を再評価するとことで、将来に向けた研究領域が見えるように感じます。

でも本当に最近の生活環境変化は著しいです。国連は地球の未来の形としてSDGsを採択し17の目標を掲げました。食品分野では目標2「飢餓を終わらせ、食料の安定確保と栄養状態の改善を実現し、持続可能な農業を促進する」が該当します。大豆は干ばつや洪水などの気候変動の影響が比較的少なく、かつ根粒菌との共生が可能なため土地を豊かにすることが可能で、ほぼ無肥料で栽培できることなどから、FAOや日本のJICAが関与する「食と栄養のアフリカ・イニシアティブ」に採用されアフリカでの栽培が行われているとのことです。大豆栽培を提案したのは不二製油㈱です。タンパク質の安定的な供給を目指して、世界的には環境負荷の大きい畜肉の生産見直しと植物肉の増産が叫ばれ、昆虫や培養肉なども話題になっています。その中で、持続的な大豆生産の推進は最も現実的で、大豆や植物タンパク質の持つ多様な機能等の基礎・応用研究の推進によって得られた成果は、そのあと押しをするものと信じています。

〈宮城大学名誉教授〉

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