随想・雑感 日本の家庭における大豆料理

日本の家庭における大豆料理

選考委員 綾部 園子

日本における大豆の栽培は弥生時代には始まっていたといわれ、今日では、さまざまに調理・加工されて日本人の食生活で欠かせない食材となっている。大豆が日本の家庭においてどのように食されてきたのかを、「次世代に伝え継ぐ 日本の家庭料理」(企画・編集/一般社団法人日本調理科学会、発行/農文協)の中から見ていきたい。「次世代に伝え継ぐ 日本の家庭料理」は全16冊から構成されているが、その中で大豆およびその加工品がタイトルに入っているのは「いも・豆・海藻のおかず」と「小麦・いも・豆のおやつ」と「肉・豆腐・麩のおかず」3冊である。

大豆の乾燥豆は長期間保存できるが、調理の際は一晩吸水させてゆでるか、またはそのまま炒って利用するのが普通である。吸水させる時間を短縮する工夫したものに「打ち豆」がある。打ち豆は大豆に熱湯をかけて木槌でつぶして乾燥させたものである。また、乾燥大豆を製粉した生大豆粉を利用する地方もある。

「いも・豆・海藻のおかず」の巻では、「昆布と大豆の煮物」(北海道)・「大豆の煮物」(福井県)・「五目豆」(愛媛県)・「ざぜん豆」(熊本県)など、一旦ゆでてから調味料で煮る料理、ゆで大豆または炒り大豆を調味料に浸した「ピリ辛大豆」(北海道)・「ひたし豆」(宮城県)・「黒豆なます」(山形県)・「するめ入り酢大豆」(岡山県)などの浸し物、打ち豆の煮物の「こじわり」(福井県)、生大豆粉を使った「うちごだんご入りの煮物」(鳥取県)と「いぎす豆腐」(愛媛県)、その他、なめみその「煮味噌」(三重県)や、すりつぶしたゆで枝豆で和えた「呉和え」(京都府)が掲載されている。大豆はゆでて煮物にするのは全国的に共通する料理であるが、浸し物やなますなど様々に調理されて各地で食されている。

「小麦・いも・豆のおやつ」の巻では、大豆に加えて大豆加工品の豆腐やきな粉を使った料理も収載されている。大豆を使ったおやつでは、ゆでて砕いた大豆と米粉をこねて作る「豆すっとぎ」(岩手県)・「豆しとぎ」(青森県)、炒り大豆ともち米をこねて作る「豆こごり」(青森県)、炒り大豆と米粉や小麦粉で作る「幸福豆」(滋賀県)、「豆だご」(熊本県)・「とくじり」(静岡県)・「豆こごり」(青森県)が掲載されている。豆腐をつかったおやつでは、豆腐に砂糖・卵・きな粉を混ぜて焼いた「豆腐カステラ」(秋田県)・「豆腐巻き」(秋田県)・きな粉と黒砂糖と水あめを練った「甘々棒」(岐阜県)が掲載されている。

「肉・豆腐・麩のおかず」の巻では、豆腐とおからを使用した料理が掲載されている。豆腐の調理では、わらづとに豆腐をいれて煮た「つと豆腐」(福島県・茨城県)、「こも豆腐」(岐阜県・鳥取県)・「しめ豆腐」(和歌山県)が各地で登場する。かつて、豆腐は庶民には高価な食材であり、それに更に手間をかけた作った「つと豆腐」や「こも豆腐」はお正月や不祝儀のごちそうであった。豆腐の煮物では、豆腐の凝固性を利用して、アルカリ性の鉱泉で煮た「鉱泉豆腐」(群馬県)は柔らかい口触りと鉱泉の味を楽しみ、すが入るまでしっかりゆでてからおかか入りの煮汁で煮込んだ「豆腐のおかか煮」(東京都)、しっかりした堅豆腐が主役の「こくしょ」(石川県)、焼いた豆腐に甘味噌だれをかけた「豆腐田楽」(愛知県)、炒った豆腐をつかった「つしま」(山口県)、崩した豆腐を寒天で固めた「寄せ豆腐」(新潟県)、季節の菜をいれた「菜豆腐」(宮崎県)など多彩な料理が掲載されている。また、豆腐の副産物であるおからを使った料理では、おからの煮物の「おからの炊いたん」(京都府)・「きらずのおごよし」(佐賀県)、おからのなますの「からなます」(千葉県)、すし飯のかわりにおからを握った「おまんずし」(島根県)・「あずま」(広島県)・「唐ずし」(山口県)・「丸ずし」(愛媛県)・「ほおかぶり」(高知県)・「おかめずし」(長崎県)などのおからすしが収められている。

その他の巻では、炒り大豆を使ったご飯類で、炒り大豆の割り豆といりこを炊きこんだ「ならじゃこ飯」(兵庫県)、炒り大豆入りのご飯をふきの葉で包んだ「ふき俵」(奈良県)、打ち豆の煮物では「煮菜」(新潟県)・「ひょう干しの煮物」(山形県)、打ち豆の汁ものでは「やまもち」(新潟県)・「遠山かぶの味噌汁」(山形県)・「打ち豆汁」(滋賀県)があり、だしが出やすく火も通りやすい特長を活かしている。さらに、呉を使った「呉汁」も各県で見られる(福井県、岡山県、鳥取県、熊本県)。

紙面上、紹介しきれないが、その他に、大豆加工品のきなこ、納豆、油揚げ、厚揚げ、高野豆腐、凍り豆腐、味噌、未熟豆の枝豆などを使った料理も多数ある。大豆とその加工品は日本人の貴重なたんぱく質源であり、さまざまな料理が食卓を彩っている。これからも日本の大豆料理が継承されることを願っている。

〈高崎健康福祉大学大学院健康福祉学研究科 特任教授〉

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