随想・雑感 大豆機能性成分の魅力

大豆機能性成分の魅力

理事 原 博

枝豆のおいしい季節が近づいてきた。ビールのお供には欠かせない。特に黒豆の枝豆は最高である。東北地方では、枝豆は軽く茹でるだけで食べると聞いた。トリプシンインヒビターが失活しないくらいにして食べると、膵臓からの消化酵素分泌がより刺激される。膵外分泌刺激機構は、北海道大学に助手で赴任してから最初に取り組んだ研究テーマである。大豆成分とのはじめての出会いは、この研究の中で用いた大豆トリプシンインヒビターである。

この膵外分泌をはじめ、いろいろな消化管機能への大豆たん白質(SPI) 摂取の影響を、ラットを用いてカゼインと比較した。膵外分泌促進や胃排出速度などには差はなかった。食べられるための唯一と言ってもいい乳タンパク質と変わらないということは、それはそれで大きな意味があると思う。一方、SPI摂取はカゼインや水対照に比べ、小腸の通過時間が早くなる現象がみられた。これには、SPIないしそのペプチドによる消化管ホルモンや消化管神経叢への何らかの作用が考えられた。膵外分泌の研究から、これを制御する消化管ホルモンであるコレシストキニン(CCK)分泌調節の研究を始めた。CCKは多機能ホルモンで、食事中の満腹感を引き起こして食べ過ぎ防止する因子でもある。食事由来のペプチドが、CCKを分泌する消化管内分泌細胞に直接作用している確証を得た。そこで、これに関係する食品ペプチド受容体をぜひ見つけたいと思い、まずは強くCCK分泌を刺激する食品ペプチドを探った結果、大豆βコングリシニン由来で、アルギニン4つを含む13残基ペプチドが見つかった。また、そのペプチドに対するCCK分泌細胞上の受容体として、カルシウム感知受容体(CaSR)が機能することも見出した。CaSRは、副甲状腺や腎臓に高発現して血中Ca濃度の恒常性を維持する受容体である。大豆βコングリシニンのパイナップル酵素分解物は、ヒトにおいても空腹感を軽減する作用が確認できた。大豆由来ペプチドは、胆汁酸を強力に結合して腸肝循環を遮断することで血清コレステロール濃度を下げたり、脂質代謝改善作用が知られているが、大豆ペプチド、さらには食品由来ペプチドの新たな機能として、消化管ホルモンを介した作用への取り組みが現在なされている。

さて、大豆にはたんぱく質のほかに食物繊維が多く含まれている。水溶性大豆多糖類(不二製油)の生理作用に関して研究する機会を得た。当時、ペプチド研究と並行して難消化性糖によるミネラル吸収促進に関する研究を行っていた。水溶性大豆多糖類は、カルシウムや鉄の吸収促進作用を有していた。特に、重度の貧血で走れなくなった胃切除モデルラットにこの食物繊維を与えると、貧血が改善し正常ラットとほとんど変わらない走り(自発走行距離)を見せた。水溶性繊維やオリゴ糖に、食品中の微量生理活性物質であるフラボノイド配糖体の吸収促進作用があることを見出したが、水溶性大豆多糖類は他の水溶性繊維に比べてより強く持続的な促進作用を持つことが最近の研究で分かった。水溶性大豆多糖類の複雑な糖鎖構造やその分子形状も解明されており、低粘度で乳化特性など物理的性質に優れた食物繊維源である。

大豆3つ目の主要成分は油脂で、大豆リン脂質の研究も手掛けた。大豆油精製過程で生ずる夾雑物であるが、食品用乳化剤として使用されている。大豆リン脂質を、胆汁酸で乳化した大豆油エマルジョンに添加してラットに投与すると、大豆油自体の吸収が促進された。腸上皮細胞でのカイロミクロン形成が促進され、リンパ放出が増加したためであった。油脂の消化吸収が低下した高齢者などに有用性はあると思われるが、油の吸収促進は食後高脂血症の観点ではあまり好ましくない。そこで、吸収率の非常に低いカロテノイド吸収を見てみた。すると、強い抗がん作用で知られているトマト色素、リコペンの吸収を3倍に促進していた。卵黄リン脂質にも同様の促進作用がみられたが、大豆リン脂質に比べるとその作用は低めであった。大豆には、このほかにもスタキオースなどの難消化性オリゴ糖が比較的多く含まれ、また微量生理活性物質である、イソフラボンやサポニン、イノシトールリン酸など魅力的な成分が含まれる。

本稿を書くにあたり、改めて分厚い「大豆のすべて」(SCIENCE FORUM)を見直した。2010年に喜多村啓介先生が編集委員長で出版されたが、近くにいたためか私も誘われて一部を執筆させていただいた。この本は、大豆に関して様々な観点からの記載がなされており、改めて大豆の多彩さを感じた。最近、「おから」のシュークリームをいただいた。外側の生地におからが入っているのかな・・と思ったが、中の生クリームがすっきり、それでいてコクがあり非常においしかった。後で聞いたら豆乳クリームだそうで、大豆もおいしさの時代に入ったことを実感した。結局「おから」の正体は分からなかった。

〈藤女子大学 教授〉

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