随想・雑感 大豆たん白質の新たな夜明け

大豆たん白質の新たな夜明け

前理事 山本 茂

大豆たん白質は、畑の肉と言われるようにたん白質に富んだ食品であることはよく知られていることである。今後の地球上の人口増を考えると、その役割が期待される。また大豆は、菜食主義者(ヴィーガン/ベジタリアン Vegan/ Vegetarian)にとって重要なたん白質源であることもよく知られている。近年は、動物性食品を避けるMeat Free Monday (月曜日には肉を食べない)やフレキシタリアンFlexitarian (1週間のうち1日以上肉を食べない)の団体の存在が知られるようになってきた。Meat Free Mondayの提唱は「地球温暖化を食い止め、かけがえのない資源を守り、多くの動物の命を助け、そして、より健康な身体を手に入れることができる」である。私にとって、後半の二つ「多くの動物の命を助け、より健康な身体を手に入れることができる」は容易に理解できることであった。しかし、前半の二つ「地球温暖化を食い止め、かけがえのない資源を守る」ということについてはわからなかった。その理由を調べた結果、「地球温暖化の原因の約15%が牛などの反芻動物が排出するメタンガスによること、同じ量のたん白質を生産するために牛肉は大豆の約10倍の水を必要とし水資源が大量に必要な」ことを知った。興味深い新しい知識を得たうれしさで、学生や親しい人たちにも伝えた。皆の反応もとてもよかったので、うれしさが倍増した。

本随筆のタイトル「大豆たん白質の新たな夜明け」は、著者が組織状大豆たん白質、通称「大豆ミート」に対して抱く夢である。大豆製品の加工技術の進歩は、不二製油との大豆たん白質栄養研究会発足準備の時代から約35年にわたる付き合いの中で沢山教えていただいた。今、私が魅力を感じる不二の製品は、「大豆ミート」で、歯ごたえが牛肉、豚肉、鶏肉などに近いものである。これを肉の代わりに利用することができれば、上記のような多くの利点を得ることが期待される。さらに魅力的なことは、食物繊維が多いことである(大豆ミート100gあたり食物繊維17.1g、うち水溶性1.3 不溶性14.8g)。

私は、東南アジア諸国で栄養学の研究・教育活動の経験があったためと思うが、4年前にインドネシアでの大豆ミートの利用を促進するための不二製油の研究協力者に加えていただいた。同国では肥満が急速に増えつづけているが、栄養調査も地方都市で2000年以前に行われたものしかなく、原因や対策法が明確になっていなかった。そこで、2015年にジャカルタの主婦を対象に栄養調査を行った。そこで肥満や高脂血症の原因が、肉類とパームオイルの多量摂取、野菜・食物繊維摂取量の異常に低いことであることがわかった。このような背景では、大豆ミートの利用は効果的と思った。先ず、大豆ミートを使った各種料理の嗜好テスト、そして好まれる料理を使って約1ヶ月間の介入研究を実施した。味に対する評価は高く、肥満や血清脂質の改善にも有効である結果を得ることができた。この結果は、2018年一般財団法人食品産業センターの報告会および2018年のアフリカ開発会議(Tokyo InternationalConference on African Development)で発表した。インドネシアでの結果で自信が得られたので、次に近年糖尿病が急速に増えているベトナムにおいて、伝統的な料理の肉を大豆ミートに置き換えて、官能テストおよび糖尿病者で約1ヶ月の介入試験を行った。その結果でも各種料理の美味しさは肉料理と遜色なく、被験者の血糖値と血清脂質が改善された。今はベトナムにおいて大豆ミートの新しい食文化形成を目指して取り組んでいる。

インドネシアでの研究が終わったころに、マックが大豆ミートのハンバーガー販売を開始したニュースが入ってきた。しかし、大豆ミートの健康に対する影響を見た研究は、見当たらなかったので、我々の二つの国での研究が世界で初のようで大変うれしく思っている。大豆ミートの利用拡大によって、動物の生命を犠牲にしないだけでなく、健康増進、地球環境の保全に貢献できればこんなに喜ばしいことはない。

〈十文字学園女子大学 教授〉

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