随想・雑感 財団への感謝と期待

財団への感謝と期待

前選考委員 廣塚 元彦

京都大学との共同講座「不二製油大豆ルネサンス講座」への勤務を最後に、不二製油での大豆たん白質の研究活動から離れた今でも、いろいろな機関や研究者の方から、大豆たん白質や大豆その物について質問を受けたり、意見を求められることがあります。

その時、非常に役立つのが当財団のホームページです。

いろいろな書籍や媒体でも大豆関連のことに触れていますが、あるレベル以上で説明なり議論をしようとすると、やはり本財団の援助により作成された論文や過去の講演会で取り上げられた内容が非常に役立ちます。

特に研究検索システムは、その存在自体を知らない人も多く、そこに掲載されている内容その物、そしてその引用文献からの情報により、研究の現状や方向性、そして新たな研究へのヒントなどを得ることができる場合があり、財団に関わった一人として誇らしく思うことが多々あります。

当然のことですが、研究成果や情報は、積み重ねることが極めて重要で意義深いことなのですが、それは一朝一夕にできる物ではありません。それらは選考委員、評議員、理事の各先生方の財団運営に対する試行錯誤の上に成り立っているいわば大豆研究の宝であり、いろいろな場面でその成果に感謝しています。

一方、先日、全く大豆たん白質の研究とは縁の無い人に、組織状大豆たん白質(TVP)を素材とした料理を食べてもらう機会がありました。ともかくまず食べてもらい、その感想を聞いたところ、ほとんどの人から高い評価を得ることができました。ところが、たとえば「これは豚肉の替わりにTVPを使った“生姜焼き”である」とか「鶏肉を目標に作った“から揚げ”である」と説明したとたん、皆の表情が一瞬曇りました。そのように知った後で比較すると、やはり本物の肉で作った“豚肉の生姜焼き”や “鶏のから揚げ”の方がおいしいという評価に替わる人が何人も現れました。また評価していただいた中の幾人かから「なぜ“豚肉”や“鶏肉”を過剰に意識して、その代替として打ち出すのか」という意見が出て来ました。

料理として出された場合、その味付けや食感から“豚肉”や“鶏肉”をイメージする人もいるかもしれませんが、一方で、それとは全く別の“美味しい料理である”と感じている人も多く、あえて“大豆で作った肉の代替品”であると知らせる意味や価値がどこにあるのかという意見をたくさんいただきました。

つまり、TVPはそれ自体、何かの代替品でもミミックでもなく、立派な食品素材であり「これは大豆から得られた新しい食材である」ということを十分主張できると感じました。

例えば“豆腐”はそれ自体を主張できる食材であり、何かの代替品であるという意識はないはずです。

大豆たん白質素材の開発初期、たん白質の含量の高さから「大豆は“畑の肉”である」をキャッチフレーズとして用い、“肉”そして“乳”を目指した(している?)と思います。

その一方、TVPを肉の代替ではなく、独立した新しい食品素材にするという目標での研究開発は、あまりなされて来なかったように思います。さらに「ベジタリアンにも食べてもらえる肉」ということを過剰に意識して、進めた点も肉代替を助長したと思います。

ご存じのように、かねてから人口増加に伴う食糧不足が叫ばれ、大豆の“食”としての直接利用が話題には上ります。しかし世界的に見れば大豆はあくまで製油原料であり、そこから生まれる脱脂大豆はほとんどが飼料として用いられているという現状は変わっていません。

そうした現状を打ち破るためにも、“受容性の高い大豆素材”とそれが活かせるメニューの開発が必須です。そしてその大豆素材は肉代替ではなく“大豆を原料としていることを主張できる素材”でなければなりません。

そう考えると、このテーマは非常に難しいように思われます。しかし前述したように、目指す大豆素材を開発できる可能性はすぐそこにあると考えてよいような気がします。もちろんそれには現状から抜け出すためのさらなる改良が必要でしょう。また商品としての打ち出し方にも検討が必要だと思います。しかし最近の技術レベルの向上、社会の変化を考えると、それを実現するためのハードルはそれほど高くないように思います。

余談ですが、最近、大豆を研究素材にしたいということで工学部のあるプロジェクトの会合に呼ばれました。そしてそこに参加していたメンバーのほとんどが食品を扱ったことのない先生方でした。しかし話をしていると、その発想の違いに驚かされました。食品の研究からは考えもしないアイデアや技術をお持ちでした。食品とは無縁なところにも有用な技術が存在していることを認識すべきだと強く感じる機会になりました。

より広い視点から研究がなされ、食品素材として積極的に利用される大豆素材とその市場が確立することを希求します。そしてそれは大豆を食べない国への大きな突破口となり、延いては大豆の食利用を広げることに繋がると思います。

財団に対しても、こうした観点からの研究開発にも積極的な支援がなされるような運営を期待しております。

〈元 不二製油グループ本社株式会社 未来創造研究所 副所長〉
〈前 京都大学農学研究科 不二製油大豆ルネサンス講座 教授〉

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