随想・雑感

財団の意義・役割 -生活者の立場から考える-

理事 島田 淳子

 日本人の食生活は、高度経済成長を機に大きく変化し、豊かになった。今や、街のスーパーにも世界各地の食材が満ち溢れ、私たちは有史以来の多様な食生活を享受している。ご飯に梅干しだけの日の丸弁当や、それすらも口にできなくなった時代を経験した世代としては隔世の感がある。

このような変化を、日本人の食生活が洋風化した、などと表現する向きもあるが、正確ではない。なぜなら、当初急激に増加した脂質やたん白質の摂取量は、1970年代にはほぼ頭打ちとなり、欧米のような脂質過剰の状態には至らずに推移しているからである。近年、特に若年層の脂質摂取量が増加の傾向にあることを始め、個別にはさまざまな問題が指摘されてはいるものの、現在の日本人の栄養状態はほぼ理想的と言われており、脂質過剰の欧米諸国から見れば羨ましい状態にある。このような特徴ある食生活に、日本の食文化の担い手として様々な形で使われてきた大豆が貢献していることは、大方の知るところである。

不二たん白質研究振興財団は、大豆たん白質を始めとするたん白質研究の奨励、援助を目的としており、日本の伝統ある食文化に存在する生活の知恵とも言うべき科学が、第一線の研究者により次々と明らかになりつつある。同慶の至りである。

ところで、本財団の究極の目的は何であろうか。言うまでもなく、学術の発展を通して国民生活の向上に寄与することにあろう。この役割を担っているのが公開講演会であり、昨年は高齢化した日本社会を見据えて、健やかに生きることに焦点を当てた講演会がなされている。一般の人々が学問進歩の概要やその方向性を正しく理解することは、様々な意味で大切であり、啓蒙普及活動の重要性は今後一層増大するであろう。

啓蒙普及活動は、もちろん本財団の本来の仕事ではなく、食教育に携わる私たちこそその責任を負うべきものである。しかし、平成8年の厚生省国民栄養調査によれば、栄養や食事に関する知識・情報源の第1位はテレビ・ラジオなどのマスメディアであり、高校・大学などの学校の順位は遺憾ながら極めて低い。役立つ情報源についても同様である。マスメディアの情報を一概に悪いと決めつけるつもりはないが、問題は系統的・総合的な情報でないところにある。

不安な状況にある時に与えられる単発的情報が、時として思いがけない突発的な行動を誘発することは関東大震災の例を持ち出すまでもなく周知のことである。そして今消費者は快適な生活がもたらす環境への負荷が日毎に高まる中で、将来への潜在的不安を抱きながら生活しているのである。

しかも不幸なことに、生産者側・消費者側双方のお互いに対する信頼感が希薄のように思われる。従って、学問上の新知見が消費者に喜びと希望を持って受け入れられない場合が生じている。このような状況を改善し、国民一人一人が心身共に健やかに生きられるようにすることが、必要であると思う。

 この意味で、本財団の今後の啓蒙活動に対してもまた、研究助成と同様、大いに期待している。

〈お茶の水女子大学名誉教授・昭和女子大学教授〉

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