随想・雑感 健康食品への危惧

健康食品への危惧

理事 山本 茂

頭をよくする油、痩せる油、よい眠りを招くアミノ酸、痩せるお茶など魔法のような食品機能の宣伝が目につくが、その根拠に疑問を持つことが多々ある。特に実験室レベルでの効果と、実生活での効果にかなりの乖離があるのではないかと稀有される。
ここでは、スポーツマン、あるいは活動強度の高い人に「たん白質」のサプリメントが有効であるかどうかについて考えてみる。この答えは、たん白質の「必要量」と実際の「摂取量」がどの程度であるかを知った上で議論しなければならないであろう。運動によって、たん白質の必要量はどれくらい増すであろう。そして実際のたん白質の摂取量はどれくらいであろう。

スポーツ選手でない場合、1日に必要なたんぱく質推奨量は体重1kgあたり0.8〜1.0gといわれている。これは必要量の研究で得られた平均値0.65g/kgから計算されたものである(推定平均必要量)。平均値であるから、半分の人には足りるのが、半分の人には不足するということになる。推奨量は大部分の日本人に足りる量であるべきであるので、平均必要量に2倍の標準偏差値を加えたもので,かなり余裕のある量となっている。これらの数値を用いて厚生労働省の定める「日本人の食事摂取基準」において、推奨量は男性で60g、女性で50gとされている。一方、たん白質摂取量は平成28年度国民健康・栄養調査の結果では成人男性は75g/日 (そのうち動物性41g)、女性63g/日(そのうち動物性34g)である。半分以上のたん白質が動物性で、質的にもほぼ満足のいくものであろう。

アメリカスポーツ医学会が2009年に発表した「栄養とスポーツパフォーマンス」に関する声明で、たん白質推奨量は、持久力を重視するスポーツ選手の場合体重1kgあたり1.2—1.4g、筋力を重視するスポーツ選手の場合1.2〜1.7gである。トップアスリートであっても1.6gまででよいとされている。アスリートが、通常の食事を500kcal増やしたすると、日本人の食事では約15%がたん白質(ほぼ万国共通)であるので、約20gのたん白質(500x0.15=75kcal/4)を取ることになる。すなわち日常的な食事を500kcal余分に食べると摂取たん白質は、男性75gおよび女性63gに20gを加えた95gおよび83gとなる。健康な20歳代の日本人の平均体重は、男63kg、女51kgである。すなわち、体重1kg当たりのたん白摂取量は、男性1.5g(95g/63kg)、女性 1.6g(83g/51kg)となる。このことは、多くのスポーツマンは日常食を多く取るだけで必要なたん白質を満たすことになり、サプリメントの必要性はないことになる。

たん白質を補う場合、エネルギー不足があってはいけない。「エネルギーによるたん白質節約作用」は、古くから知られた現象で、運動選手はエネルギーの枯渇により筋肉中のたん白質がエネルギーとして利用されることを予防するために、十分なエネルギーを摂取すべきである。大豆たん白質栄養研究会(現在の大豆たん白質研究会)を設立した井上五郎教授の功績の一つは、たん白質不足を防ぐためには、価格の高いたん白質量を増やすよりも、より安価なエネルギー源となる食事(主に炭水化物)をとるのが有効であることを示したことであろう。現在、多くの一般人が米は肥満・糖尿病の原因になり易いという報告のために摂取を控え、たん白質の摂取を高めるということが流行しているようである。しかし、これは米の食べ過ぎで起こる問題であるが、それを無視して米はどのような食べ方をしても太るというトリッキーな考え方に思える。問題は、一般の人が、そのトリックを見抜くことが困難なことである。たん白質の補足か、十分なエネルギーの供給かを間違えてはいけない。

たん白質の摂取量を増やすことで筋力アップができるなら、すでに必要量の50%以上をとっている一般的日本人男女は筋肉隆々としているはずである。しかし、脂肪は増えても筋肉は増えない。だからこそ、世界中のトップアスリートの多くが人生の危険を顧みずに筋肉増強剤を利用し、ドーピング違反の罪に問われることになるのであろう。必死の思いで記録に挑戦を続ける選手達に、本当にたん白質サプリメントは有効なのか、そして多くの健康食品の在り方は正しいのか、さらには我々研究者の姿勢はどうあるべきかを考える時期に来ているのではないだろうか。

〈十文字学園女子大学教授〉

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