随想・雑感 -退任にあたっての雑感-

-退任にあたっての雑感-

前理事長 海老原 善隆

2007年から不二製油社長、会長として財団理事長を8年間務めさせて戴きましたが、本年4月に理事長を退任致しました。この間、理事、評議員、選考委員の先生方、又、監事の先生方ほか皆様には一方ならぬご支援、ご協力を賜りましたこと、厚くお礼申し上げます。

『退任にあたっての雑感』ということで、少し思いのまま書く ことをお許し頂きたいと思います。

不二製油では油脂を中心とした研究、事業に携わってきました。大学時代はトリプトファン醗酵の培養と生理・代謝機構を研究しましたので、蛋白質には少なからず親しみはありました。油脂と蛋白質は、私の趣味で例えると囲碁と将棋の違いのようでもあります。油脂は、脂肪酸の鎖長の違いこそあれ、液体か個体の単純世界です。それは囲碁の白と黒だけの世界に通じます。一方の蛋白質は、機能の異なる多種のアミノ酸からなり、3次元、4次元構造を有しています。将棋も機能の違う8種の駒があり、玉駒を中心とした一つ一つの駒の有機的な繋がりが蛋白質の高次構造を連想させます。比較をすることにそれ以上の意味はありませんが、想像力に富んだ将棋的思考方法を取る人は、複雑系の蛋白質の研究に向いているかもしれないと、一人合点を致しております。少し横道に逸れました。

今申し上げましたように、不二製油では蛋白質とは離れた場所にいましたので、理事長に就任してから財団の研究報告会に初めて参加しましたが、発表され、議論されている内容は蛋白質研究として充分にアカデミックで世界に出しても通用するとの印象を持ちました。そこで理事長としての私の課題を2つ設定しました。一つは、得られた研究成果を不二製油を含めた財団内にだけに留めておくのはもったいなく、その成果をもっと速やかに外部に知らしめるということ。「報告会のオープン化」です。もう一つは『大豆・大豆たん白質を美味しく食べてもらって健康な食生活に貢献する』のが財団の目的と私自身理解をしておりましたので、すでに幾人かの先生方がその必要性を指摘されておられましたが、「調理を科学する」研究を盛んにすべしということでした。

2012年には当財団も公益法人となりオープン化を推進出来る環境が整ってきている中、報告会のオープン化は昨年の2014年から始まり、文科省や農水省食品総合研究所などの公的機関、また、食品系マスコミからも参加戴くようになりました。さらに、出来るだけ多くの人が参加しやすいようにと、同じく2014年に慣れ親しんだ大阪千里から東京に開催場所を移しました。

一方、2009年からは「調理科学」が助成研究対象に加わることになりました。「調理を科学する」研究は、原料が生もので複雑系であるがゆえに、どう科学的に扱うかは決して容易ではないかと思います。しかし、最近の調理の『科学的根拠への理解』の進歩を見ていますと、風味とかその安定性、食感などの食品素材の持つ特性は、分子レベルからの解析の重要性は勿論ですが、元々の細胞構造を保持することでより強調されることや、また逆に、その細胞構造を適切に破壊することで際立った特性が引き出されることも分かってきています。肉汁の出ないステーキの焼き方やパプリカでの加熱による甘味成分の遊離などは、目から鱗の例になります。このようにこれからの「大豆の美味しさ、栄養の研究」も、分子レベルと細胞レベルの二つの方向があるように思います。分子レベルの研究もさることながら、「調理を科学する」のも我々財団の役割であるぐらいに思っていいのではないでしょうか。

退任してから素人の浅知恵で色々言っていますが、蛋白質を単品で扱うのでなく、油脂や糖との組み合わせによる新しい素材、機能の創出の研究も面白いように思いますし、大豆に限定しないで、世の中にある各種豆類蛋白質の研究を取り入れることも有益かと思っています。

また、市場ニーズは研究情報としても不可欠ですが、特にたん白質については世界での多様な用途があり、世界のニーズを把握しておくことが重要です。その為にも、海外での研究助成を今後どう進めるかが、財団の課題になってきているように思います。こう書いてくると、理事長時代に先生方ともっと議論をしておくべきだったと反省しきりですが、新しく財団運営を担われる若い人達にはまた違った斬新な視点もお持ちでしょう。これからの『不二たん白質研究振興財団』が大豆や蛋白質研究分野でますますその役割を深めて行き、世界の蛋白質研究、たん白食品をリードすることで、グローバルに人々の食生活へ貢献することを期待致しております。

〈不二製油相談役、前不二製油取締役会長〉

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