随想・雑感

学術の発展と研究助成

選考委員 松田 幹

 「不二たん白質研究振興財団」は1979年に「大豆たん白質栄養研究会」として発足し、学術団体、財団法人を経て、2012年に活動の公益性の認定を受けて公益財団法人となり今日に至っている。この間に、財団の名称から“栄養”が、さらに“大豆”が削除され、奨励、援助する研究分野を徐々に広げてきた。その後、財団法人に移行する際に、本財団の財政を含め全面的に支援をいただいている不二製油株式会社の“不二”を冠して現在の名称となっている。この財団の活動の目的は、定款や公募要項に記載してあるように、“たん白質に関する研究およびこれに関連する研究の奨励、援助を行い、もって学術の発展及び国民生活の向上に寄与すること”である。毎年、特定研究および若手枠を含一般研究の課題を公募し、大学や公的研究機関などに所属する研究者から提案された研究課題を審査委員会で審査して30件ほどを選定して研究費を助成している。“たん白質に関する研究”ではあまりに広いので、財団として奨励する領域を“大豆たん白質および大豆関連成分に関する研究”としているが、大豆の遺伝・育種学から食品科学・工学、調理科学、さらに基礎栄養学、健康・臨床栄養学まで、幅広い研究分野が設定されている。研究内容についても基礎志向、応用志向に関わらず採択されており、この財団の助成を受けた研究課題は大豆を研究対象とした自然科学をほぼ網羅していると言っても過言ではない。年に一度開催される研究報告会では、大豆の成分等を研究対象とする多様な分野の研究者が一堂に会して研究成果の発表と熱心な討論が行われており、その場に居るだけで大豆に関連する学術の進展と広がりを実感することができる。同時に、我が国における大豆関連の研究者の層の厚さと質の高さを感じる。大豆の成分を研究対象とする一研究者として、これまで30年以上の長期に渡って研究助成を続けてこられた本財団、および途絶えることなく支援を続けてくださった不二製油株式会社に、改めて敬意と謝意を表するとともに、50周年、100周年を目指していただきたいと思う。

 研究は、その動機付けや駆動力に依存して大きく2つに区分される。一つは研究者の知的好奇心や科学的興味に基づく自由な発想による研究(心理学の用語を用いてcuriosity-driven researchと言われる)で、主に大学に所属する研究者(教員)が担っている。もう一つは、課題解決などの特定の使命や任務を志向した研究(mission-oriented research)で、これを推進するのは主に各省庁関連の公的研究機関(独法)や民間企業の研究者である。本財団は研究助成を通して、文字通り大豆に関連する学術の発展に大きく貢献しているが、上述したcuriosity-drivenの研究を対象として、応募する研究者の自由な発想による研究を奨励している。とりわけ一般研究では、“大豆たん白質および大豆関連成分に関する”という研究対象の指定があるのみで、あとは応募者の裁量に委ねられており、毎年、多様な切り口での大豆に関連する研究課題が助成対象となっている。応募者のほとんどは大学等の教育研究機関の所属であり、それぞれの専門に依存して基礎あるいは応用を志向した研究課題が提案されている。応用を志向した研究課題であっても、現象の観察や記録、解析、さらに現象の機構の解明など、随所に研究者のwhy? How? という科学的興味、知的好奇心が反映されているように感じられる。研究者の自由度が許容され、その裁量に委ねられる研究では、研究を進める過程での思わぬ発見や新たな着想があったり、また、それを基に研究の方向を転換したりすることもある。予想外の展開から大きな成果に繋がることもあり、これがcuriosity-drivenの研究の醍醐味の一つでもある。学術の発展に大きく貢献するような、さらに、開発研究や実用化に繋がり社会に還元されるような重要な発見や基盤技術の多くはcuriosity-drivenの研究の成果が端緒になっていると言われている。一定の期間内での具体的な成果を目指すmissionorientedの研究とともに、多様な成果の集積と体系化による知的基盤の構築を目指すようなcuriosity-drivenの研究も重要である所以である。同時に、curiosity-drivenの研究者を標榜する者は、挑戦や開拓、探索といった研究マインドを常に意識し、重要な成果を見逃すことのないように五感を研ぎすまして研究に臨む姿勢が重要であろう。本財団の活動により、大豆たん白質および大豆関連成分に関する知的基盤が一層充実し、次世代を担う優れた研究者が育つことを期待したい。

〈名古屋大学大学院教授〉

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