随想・雑感

助成課題からみた大豆たん白質研究

選考委員 村本 光二

 今年、第15回研究報告会を開催した「不二たん白質研究振興財団」は、公益財団法人として移行認定を受けられました。財団の発展に尽力されてこられました不二製油株式会社をはじめ、関係各位に心より敬意を表します。本財団は、1979年に設立された「大豆たん白質栄養研究会」に端を発し、1997年に財団法人として設立許可されたと記録にあります。過去の財団時報を読み返してみると、諸先輩方がいかに熱意をもって本財団の設立発展に取り組まれてきたかがひしひしと感じられます。本財団はこれまで、公開講演会の開催や「大豆たん白質研究」誌等の刊行、そして何より研究の遂行に欠かせない研究費を大豆に関わる研究にたずさわる多くの研究者に助成し、その成果を発表する場である研究報告会を開催してこられました。報告会では、研究助成を受けられた多分野の研究者が大豆をキーワードとして成果を真摯に発表され、それに対する質疑応答も熱心に行われています。

 Vol. 14(通巻第32巻)となる「大豆たん白質研究」誌には、前年度の研究報告会の発表内容が報告書として収録されています。従って前々年度に採択された研究助成が分野ごとに掲載されており、本財団が助成してきた研究の変遷を辿ることができます。何かの参考になればと思い、この機会にVol. 1~14をめくって大雑把な変遷をみてみました。当初、一般研究28課題でスタートしていますが、Vol. 5からは特定研究が加わり、Vol. 11では若手研究者枠として10課題が設けられ、その代わり一般研究は20課題となっています。一般研究は、遺伝・育種(当初は成分育種)(以下、「遺伝」)、食品化学・食品加工技術(同、「食品」)、生化学・栄養(同、「生化」)、健康・臨床栄養(同、「健康」)の4分類でしたが、Vol. 14から調理科学(同、「調理」)が入り、5分類となりました。

 分類ごとの採択課題は応募課題数によっても変わりますが、Vol. 1~14を3期に分け、各分類の割合でみると、「遺伝」11-16-17%、「食品」22-16-12%、「生化」55-52-45%、「健康」12-16-22%となっています。Vol. 14で登場した「調理」は22課題のうち4課題を占め、18%です。また、主観的な分け方ですが、研究課題が対象とした大豆成分でみると、たん白質60-49-31%、ペプチド8-16-19%、イソフラボン25-26-30%となっており、プロテアーゼインヒビターやサポニン、多糖類が数%で推移しています。第3期でたん白質とペプチドの合計が約15%減少しているのは、遺伝子を対象にした課題が10%を占めたためです。これらの数値から、従来大半を占めていた「食品」と「生化」の課題が減少し、「健康」、そして「調理」が増加していることがわかります。研究内容も、従来型の食品科学・生化学から分子生物学や分子遺伝学、細胞生物学等の新しい研究手法が用いられ、大豆の特性や食品機能性が分子レベルで解き明かされています。一方で、大豆食品や成分の生体調節作用がヒト試験や疫学研究で調べられ、多くの機能性や効果が科学的に明らかにされてきています。今日、大豆食品を食べることは、健康の維持と増進に良いということは、ほぼ常識となっているように感じます。

 しかし、いくらからだに良いといわれても、食品として摂取してその効果を期待するためには、継続して無理なく食べることが必要です。そのためには、その食品がおいしく、食習慣に馴染むことが求められます。豆腐や納豆は長い歴史のなかで食文化に溶け込んでおり、日常的に食べられています。このような大豆食品のさらなる消費の拡大も必要ですが、食資源として大豆を考えれば、脱脂大豆から調製するたん白質や食物繊維をわれわれがもっと多く摂取するようにすることも大切です。

 大豆の食品としての機能性に関する研究を振り返ってみると、1次機能の栄養性の面では必須アミノ酸のバランスや腸管吸収性、必須脂肪酸やミネラル・ビタミン成分、2次機能のおいしさではいろいろな物性や加工特性、そして3次機能の体調調節作用など、これらの研究に関する多くの成果が「大豆たん白質研究」誌に報告されています。先に述べた研究課題分類の推移は、そのときそのときに求められてきた研究を反映しているように思います。WHOは最近、世界のほぼ3人に1人が高血圧であり、死因の63%が心臓血管疾患やがんなどの生活習慣病だとする報告書を発表しました。生活習慣病の原因として高血圧、喫煙、高血糖、肥満等があげられ、いわゆる先進諸国だけでなく開発途上国でもそれらの増加が問題化しているといわれます。

 いうまでもなく、健全な社会をつくるためには生活習慣病にならないような食生活が最も重要であり、そのなかで大豆が果たせる役割は非常に大きいと考えています。だれもが喜んで食べる大豆食品を開発するための取り組みや研究が展開することに大いに期待するものです。

〈東北大学大学院 教授〉

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