随想・雑感

継続は力なり

理事 岸 恭一

 不二たん白質研究振興財団はこの4月にめでたく公益財団法人として認可された。これまでの活動が公的にも認められた証であり、喜ばしい限りである。前身の大豆たん白質栄養研究会は1979年に発足しており、これを通算すると33年の長きにわたる。設立当初は、大豆たん白質の栄養価、脂質代謝への効果、食品学的基礎研究(物性、加工特性など)、大豆ペプチドの利用等の研究を中心に援助していたが、その後遺伝・成分育種にも拡大され、それに応用的研究として調理科学分野も加わった。また、一般研究のみを対象にしていた助成の上に、人の健康や病気の予防を目指したより大型の特定研究が加えられ、また若手研究者枠も設けられた。このように、大豆のみに助成対象の的を絞り、長年にわたり研究を推進している財団は世界的にも類例がない。研究成果は毎年の研究報告会で発表され、また「大豆たん白質研究」を刊行し、その内容をWeb上でも公開している。さらに、各地で大豆の働きに関する公開講演会を開催し、栄養士を始め一般の人々の啓発にも努めている。

 これまで財団の援助により、最新の分子生物学的手法を駆使した大豆の基礎的ならびに応用的研究が行われてきた。その中で、肥満や生活習慣病に対する大豆の効用についての研究にも大きな進展がみられた。公益財団法人となったこの機会に、今後の方向性を愚考してみたい。

 日本では肥満や糖尿病は現在大きな問題となっており、その予防と治療は急務であるが、世界的にみると過剰栄養だけではなく、低栄養の問題が依然として残されている。単純性肥満は、短絡的に考えれば、エネルギー代謝においてエネルギー摂取量が消費量を上回ることにより生じる。すなわち食べ過ぎである。また糖尿病は、英国の厚生統計によれば、死亡率が1914年と1940年に激減している。糖尿病の発症には食事、遺伝、ストレス等が関与するが、身体的および精神的ストレスはともに戦時中には増すので、激減した理由は食糧不足によると考えられる。必要量以上に摂取したエネルギーを体脂肪として蓄えるのは、現代のような飽食の時代には不都合であるが、狩猟・採集時代にあっては生存に有利な適応であった。問題は、人間が進化を上回る速いスピードで食生活・身体活動を変化させたことである。折角、進化の過程でヒトが獲得した有用な特質を無駄どころかマイナスにしているのである。人口増加、化石エネルギー源の枯渇、地球環境の悪化や食糧危機の到来を考えると、倹約遺伝子は将来再び重要になるであろう。ちなみに、たん白質は進化的に欠乏に対する適応よりも、過剰に対する適応が成立しており、必要量の2倍摂取しても体内に余分に貯留することはなく、窒素は尿素として捨てられる。食べ過ぎの抑制と飢餓の防止の両者を比較すると、後者の方がより困難であるが、より重要であると私は考える。過剰栄養にばかり気をとられているのは片手落ちであり、食糧不足に対処する研究も忘れてはならない。大豆が直接食用に供される割合は世界合計で約6%に過ぎず、大豆消費の約90%は搾油用である。大豆油はその20%弱を占め、残りはいわゆる大豆粕である。大豆粕(大豆たん白質にとっては不幸な命名)は重要な家畜飼料となっているが、肉やミルクにしてから摂取するよりも、日本古来の大豆消費のように、直接人が食べる方が効率的であることは言うまでもない。

 今後、これまでの栄養科学・食品科学の基礎的な研究を発展させるとともに、臨床応用と実生活に直接裨益する研究を推進する必要がある。具体的な研究課題の例として、たん白質資源確保のために、育種の面からは高付加価値化、安定的な多収化、保存性の改良など、調理の面では生体における利用効率改善法、また大豆製品の利用の面では栄養的価値の高いおからの食用としての飛躍的利用拡大等々が考えられる。21世紀は脳の世紀と言われるが、脳機能、脳の老化、痴呆などに対する大豆成分の効果、ストレス軽減作用などの研究も残されている。現在、研究課題の公募は国内に限られているが、英文で外国からも応募できるようにするのも一考の価値がある。

 継続は力なり。これまでに財団の支援により築かれた成果の上に、さらに広範囲の研究を積み重ねることにより、大豆たん白質の価値は確固としたものになるであろう。今後とも世界の大豆たん白質研究をリードし、それにより世界中の人々の食生活を守り、健康を維持することは本財団の使命であり、故西村政太郎氏や故井上五郎先生たちが目指された方向であると思われる。ますますの発展を切に望む次第である。

〈徳島大学名誉教授〉

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