随想・雑感

上海万博に豆腐プリン

評議員 片山 務

 5月1日から中国上海で万博が開催されています。

 ここでエキスポマークの入った「豆腐プリン」が販売されてい ます。

 不二製油のグループ会社が上海で豆腐、豆乳などの大豆加工食品の生産、販売会社に資本参加して6年が経ちましたが、中国 発展を内外に示す象徴のような上海万博で、チルドの「豆腐プリン」が売られるように市場が変わってきました。ご存知のように、中国の豆腐は加熱調理用の固い豆腐がほとんどで日本の絹こし豆腐などの柔らかい豆腐は普及しておりませんでしたし、まして生で食べる習慣などありませんでした。15年ほど前から日本のいくつかのメーカーが沿海部を中心に日本的な豆腐の導入を試みました。当時は上海地区でも量販店はほとんど無く、豆腐も含 め食品は所謂「自由市場」(生きた鶏、かえるなど雑多なものが 売られている)で購入するのが一般的でした。同じ豆腐の名称でも硬さが違い、食べ方が違い、買う場所が違う「日式豆腐」の販売は停滞し、ほとんどのメーカーが撤退しました。変化は、買う場所から起こりました。カルフールなどの欧米系スーパーの進出で食品を量販店で買う生活がスタートしたのです。パジャマでスーパーへ買い物に行く姿も散見されました。量販店の拡大は物流面の改革を促し、チルドの物流、チルドの販売が普及しました。

 冷たい豆腐を車に乗ってスーパーに買いに行くと言う、15年前には想像も出来ない生活の変化が起こったのです。この変化は、上海の人々の食生活も変えていきました。いままで腹を壊すから怖くて食べられなかった刺身(生さかな)、サラダ、また 「冷やっこ」などのおいしさに気付いたのです。

「私ども旭洋豆腐は、生で食べても下痢をしません」をうたい文句に安全、安心のブランドを確立し、上海でのブランド認知率80%を超えるナンバー1ブランドに成長しました。

 中国の豆乳は、最近でこそ牛乳が普及し始めましたが、朝の定番メニューとして定着し、よく飲まれています。家庭で作ることもありますが、朝の街角での立ち飲み、量販店での袋入りなどフレッシュ感のあるチルドの豆乳が良く売れています。4年前から栓付の持ち歩きの出来る豆乳(新しい容器)、無糖豆乳、黒ゴマ豆乳(健康感、おいしさ)を販売していますが、若い女性の嗜好を捉え順調に拡大しています。ここにも買う場所の変化がありました。コンビニの拡大、日本資本のコンビニの参入でチルド食品の充実が図られたのです。朝、出勤途中の若い女性がコンビニで 手軽な容器に入った健康的な豆乳を買うスタイルが定着してきた のです。

 「コンビニ、女性、大豆の健康」をキーワードに商品の横展開の検討が始まりました。上海の女性は、お金もファッションも食べ物の嗜好もスマートでありたい願望も日本の女性となんら変わりません。健康志向ははるかに強いようにも思われます。豆腐、豆乳を切り口にしたデザートの誕生です。乳製品のおいしいデザートも急速に普及しています。長い間親しんできた豆乳から出来たデザート、ヘルシーなプリン、意外と善戦しています。 豆腐は中国から日本へ紹介されました。長年貴重な蛋白源として日本人の食生活を彩ってきた豆腐、豆乳の文化を千年の月日を経て今の中国へお返しする、別の道を歩んできた大豆の文化が今上 海万博で融合するとか言うと余りに中国的大言でしょうか。

〈不二製油株式会社 専務取締役〉

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