随想・雑感

自動車と大豆

評議員 小幡 静雄

 突飛なタイトルで恐縮ですが、昨今のニュースを聞いていると、将来、世界の大豆原料の調達は如何なことになるのか、暗然として考え込んでしまいます。

 経済の急激なる発展は、地球上のあらゆる資源の需給バランスを壊し、物によっては枯渇の危機に直面しています。更に大きな課題は、地球温暖化につながる化石燃料の大量消費による二酸化炭素の排出です。経済発展と地球の環境維持は、歴史的には、その時代毎にそれなりに解決されてきたと思っていました。しかし、現状はそんな呑気なことが言える状況ではありません。

 身近なところでは、隣国の中国です。物凄い経済発展と共に大きな環境破壊を引き起こしています。もっとも卑近な例では中国の車社会です。16年前、初めての北京を訪問した折のことです。薄暗い早朝に見たおびただしい自転車の隊列に度肝を抜かれた記憶がありますが、今や、一日中車の大渋滞で、ホテルで夜中、目が覚めると自動車の騒音が気になるほどの交通量です。工場群と共に大量の二酸化炭素を放出しています。

 所で、世界の自動車保有台数は、約8億台と言われており、内訳は、凡そ北米34%、日本10%、欧州25%で中国はその他の30%強に含まれ不明ですが、既に日本を抜き1億台前後と推測します。問題は中国の人口です。個人所得の上昇目覚ましい13億の民が近い将来、仮に日本並みの1.5人に1台保有すれば、中国だけで8億台です。そこまで行かないとしても途轍もない事に成ろうとしています。

 話がそれましたが、二酸化炭素排出量削減は、待ったなしの地球規模の課題です。中国と共に排出量TOPで且つ京都議定書から離脱した米国ですら10年でガソリンの消費量を二割減らす目標を掲げております。欧州は、温暖化ガスを地中に貯留することにより排出量2割削減を果たそうとしております。地中に埋めればそれでいいのか、安全面の確認はどうかなどの問題もあるようですが、ここで問題にしたいのは、後先を考えず、小手先の解決策として注目されているバイオ燃料です。菜種油やパーム油などの植物油で軽油代替のバイオディーゼル、米国が削減策としているトウモロコシ(ブラジルはサトウキビ)を原料にエタノールを生産しガソリンと併用するバイオエタノール、確かに二酸化炭素を吸収した植物を原料にするのですから燃やしても二酸化炭素の増減は、差し引きゼロで、排出抑制には貢献するわけですが、大豆にとってここからが問題なのです。

 昨年6月黒龍江省の農芸科学院の研究者にお会いした折、既に中国の大豆主産地でもバイオエタノールの需要で、大豆からトウモロコシへの作付け変換が進んでいる事を聞きショックを受けたのですが、ブラジルとともに世界TOPエタノール生産国の米国は包括エネルギー法で2012年までに75億ガロンの生産を義務付け、昨年段階で既に100のエタノール工場があり30が建設中とのことで、来年にも目標達成し、この十年で更に350億ガロンを目指すとのことです。しかし、その結果はどうでしょうか、トウモロコシ価格は既に従来の倍になり、米国の農家は大豆より収入の高いトウモロコシへの転作を進めているのです。

 日本は、大豆の殆どを輸入に頼り、米国を中心に450万トンを輸入しております。又大豆の輸出国であった中国が昨年2700万トンも輸入しました。大豆の値上がりと大豆の取り合いが始まっているのです。金を出せば、買えると言う状況では無くなりつつあります。

 トウモロコシは、開発途上国にとって重要なる食糧です。食糧安全保障の観点からも、どう考えても、バイオ燃料普及が二酸化炭素排出削減の決め手とは、思えないのです。

 昨日、安倍首相の「世界全体の温暖化ガス排出量を現状から2050年までに半減する」との長期目標発表のニュースを見ました。京都議定書に代わる国際枠組みへの米国・中国・インドなどの主要排出国の参加も提唱されている。「美しい星50」等と言われると少し不安に成り、2012年の京都議定書のタイムリミットが守れないから、単に問題を先送りしたのではないかと考えたりしますが、画期的な評価できる提言だと思います。自らも言われていますが、「現在の技術の延長線上では目標の達成は困難」は、明白です。

 一刻も早く各国が同一の目標を共有し、具体的な行動計画の中で、種種の革新的な排出削減技術や世界の制度が生まれてくることを切望します。

 しかし、2050年迄、いや何時まで大豆は持つのでしょうか心配の種は消えません。

(H19.5月記)

〈不二製油株式会社 常勤顧問〉

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