随想・雑感

蛋白質研究と食文化

選考委員 松澤 佑次

 不二たん白質研究振興財団のグラント選考委員をさせていただいてはや数年になる。最初は不二製油が何故、私の専門である脂質研究ではなくて、蛋白質の研究にグラントを出すのか、不思議に思ったものだが、すぐに不二製油の主力製品がわかってなるほどと納得した。

 不二たん白質研究振興財団を構成する陣容は日本のたん白質研究、食品科学研究の指導者ばかりで、選考委員の大役はこの分野の新参者にとって少々プレッシャーが掛かるものであったが、いざ多くの研究申請の内容に接してみるとその内容の多彩さに驚くとともに大変楽しく読ましてもらっている。大豆蛋白に焦点を当てた世界でも類を見ない多くの研究の中には、私が研究テーマとしている生活習慣病と密接に繋がる研究も多いが、それだけでなく我が国の食文化を論じる研究も多いのには感激した。例えば、大豆乳凝集機構の研究は沖縄の珍味、豆腐ようと似た発酵食品の製造に貢献する研究だとのことで、まことに興味深い。一概に食文化といっても、単にそれぞれの国の特異な宗教的慣習や経済的理由による食習慣で必ずしもグローバルに、勧められないものもあるが、我が国の大豆食に関しては味、健康などあらゆる面から考えて世界に誇るべき食文化と言える。先の豆腐ようはともかく、普通の豆腐、納豆、ゆば、さらにおからにいたるまで大豆の加工食品が我が国の日常の食生活に占める位置は極めて大きく、これが我が国の動脈硬化性疾患の発症率が今でも欧米に比べてはるかに低い理由の一つであることは間違いない。納豆が骨粗しょう症の予防食であることもエビデンスが得られている。近年の、若年層における、食生活の欧米化は我が国の食文化を破壊しかねない勢いで進んでいるようである。この時期にあって、本財団の研究振興によって、現在一般に漠然と理解されている大豆食の健康への効果とそのメカニズムが分子レベルで解明されれば、この食生活の欧米化に歯止めをかけられるかも知れない。二十一世紀の医学研究の課題の一つは、いままで当たり前のように考えられていながらそのメカニズムがわかっていない現象を解明することにある。

 この度、特定研究の助成金を図らずも頂くことになり、わたしの研究テーマである、生活習慣病の責任分子と考えられる脂肪細胞から分泌される生理活性物質(アディポサイトカイン)と大豆蛋白の関連を明らかにするプロジェクトを進めることになった。現時点でもかなり興味のある成績が出てきており、何らかの新しいメカニズムを示すことができるものと期待している。

〈大阪大学大学院医学研究科教授〉

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