随想・雑感

大豆たん白質研究の広がり

選考委員 齋尾 恭子

 2000年10月に、本財団並びに関係諸氏の手厚いご支援を得て、第3回国際大豆加工利用会議(ISPUC-III)がつくば国際会議場において成功裡に終了した。会議の登録者は21カ国551名であったが、産業展示会及び協賛の公開講演会やセミナーへの参加者を加えると1,000名を超え、また、会議の際に配布したプロシーディングスには286論文を収録することができた。欲を言えばきりがないが、大豆の加工利用という限られた分野での会議としては、多方面に関心を喚起できたことは大きな喜びである。

投稿論文の数が最大であったのが、分科会〈近代的大豆食品の加工利用技術〉であり、一部の論文の内容を検討して他の分科会に移動させても、なお2日間に納まらなかった。プログラム編成者の一人として、アジアで開催する会議であるので〈伝統的大豆食品〉分科会、あるいは最近の大豆の生理機能性への関心の高さから〈栄養と生理機能性〉分科会への偏りを予想していただけに、若干意外とも感じた。しかし、産業関連者の参加が多く、実学に近い本国際会議の性質を考えると、大豆から近代的食品を製造する研究開発に対して力を注ぐのが当然とも言える。

大豆の近代的利用は、1965~70年代にかけて、脱脂大豆から大豆たん白製品を製造する技術が米国から導入、各企業はそれらの技術の消化と発展に懸命になった時代を経て、1980年には(社)日本植物蛋白食品協会が設立、81年から植物性たん白食品のJASが設定、この食品に対する企業の色分けがほぼ決まり、市場権を得ることが出来た。その後大豆たん白食品は広く、薄く市場に伸びているが、それらの時代の基盤的技術となったのが、二軸エクストルーダーによる高品質組織化素材の開発、エマルションカード製造技術の伝統的食品への用途拡大及び化学的・生物的処理による用途向け素材へのきめ細かい改質等であろう。そして時代を追って、健康と環境への配慮から、植物性たん白食品は伝統的大豆食品との間隔をせばめてきている。ISPUC-IIIの近代的利用技術においても同様な傾向が認められた。

分科会の論文数ではなくISPUC-IIIの成功の原動力になったのは、やはり大豆の健康への効果であり、1999年における冠状動脈性心疾患への防御効果に対する米国FDAの健康宣言が大きな影響を及ぼしていた。大豆の生理機能性が話題となり、研究数が増え始めたのは1990年代に入ってからなので、本財団の前身である大豆たん白質栄養研究会が1979年に発足し、単なる栄養のみでなく、生理的機能性を論議してきたことは極めて先見の明があると言え、改めて本事業を始められた西村政太郎前理事長の決断に頭が下がる思いがする。

日本植物蛋白食品協会では普及推進検討部会をもち、消費量の頭打ちを何とか打破しようと懸命に努力している。健康に優れた素材であることを強みに、産業給食(学校・医療・高齢者施設等)等や惣菜や調理加工品等の中食分野にも拡大することを切に願う。そして、ISPUC-IIIのキャッチフレーズは〈新しい大豆時代の夜明け〉。21世紀が真にそのような時代であることを祈願する。

〈東京都立食品技術センター顧問〉

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