随想・雑感

大豆たん白質研究の発展を願って

選考委員 岸 恭一

 財団法人不二たん白質研究振興財団設立の基盤となった「大豆たん白質栄養研究会」は、1979年に故井上五郎先生を委員長として、不二製油株式会社元社長、本財団初代理事長西村政太郎氏の大豆たん白質にかける強い熱意のもとに発足しました。当時私は、井上先生のご指導のもとに、たん白質必要量研究の一環として分離大豆たん白質の栄養価を調べておりました。そのような関係で、研究会発足当初から十数年に亘り研究費の援助を賜りました。改めて厚く御礼申し上げます。研究発表会には、始めは井上先生に連れられて、後半は教室員と一緒に、第1回から毎年欠かさず出席してまいりました。お蔭で20年余の長きにわたり、大豆たん白質研究の発展を目の当たりにしながら過ごすことができました。発表会で、芦田先生、藤巻先生をはじめ日本の栄養・食糧分野における重鎮の先生や新進気鋭の研究者と近しく話す機会を得ましたことは望外の喜びでありました。年を経る内に、そのような私が、研究会の学術委員として、また財団設立後は選考委員として、さらに前理事の新山喜昭先生から引き継ぎました報告書編集委員として、幾つかの面で財団と関わらせて頂くことになりました。研究費を申請する側から選考する立場になりましたことは、井上先生や新山先生のご薫陶の賜とはいえ、烏滸がましい限りです。

 さて、大豆は米と並んで日本人の重要な植物性たん白質源となっており、たん白質摂取量の10%弱は大豆から摂取されています。私どもはヒトで、大豆たん白質を米たん白質と組み合わせると、魚のたん白質に匹敵する栄養価を示すことを報告しました。日本人は男女とも1986年以降連続して世界一の長寿を誇っていますが、それはこのような米、大豆、魚を組み合わせた日本食の良さの現れと思われます。誠に喜ばしいことですが、その反面人口の高齢化を招き、寝たきりや要介護など、高齢者の健康問題が浮上してきました。単に長生きするのではなく、生活の質(QOL)の高い人生が求められます。そこで、21世紀の我が国を健やかに生活できる社会とするために、厚生省(当時)は2000年に「健康日本21」と銘打った第3次国民健康づくり対策を打ち出しました。健康日本21は9項目からなりますが、栄養・食生活はその最初に挙げられています。第7、8及び9項目の糖尿病、循環器疾患及びがんも、栄養・食生活と関係が深く、栄養は健康の維持・増進の中心的位置を占めています。大豆はたん白質栄養価が高いばかりか、血清コレステロール低下作用、エネルギー代謝亢進作用、抗ガン作用、骨形成促進作用など、多くの生活習慣病の予防と治療に効果を発揮する成分を含んでいることが報告されています。このようなことから、21世紀における栄養改善、健康の増進に大豆たん白質が大きく貢献すると予想されます。従って、財団の果たす役割もますます重要性を増して行くことでしょう。財団が、大豆たん白質を通して、21世紀の人々の健康の維持・増進に大きく寄与されることは疑いないと思われます。

 最後になりましたが、大豆たん白質に対する西村前理事長の慧眼、大豆たん白質研究の発展を予測された先見の明、永年にわたり研究会並びに財団をリードしてこられた熱意とたゆみない努力に深甚の敬意を表すとともに、これまでのお世話に感謝申し上げます。世界に類のない目的を有する本財団の活動により、独創的な研究、質の高い研究、ヒトの健康に資する研究が進展し、大豆たん白質研究がバランスのとれた発展を遂げ、この分野で世界をリードし続け、人類の幸福に裨益するよう望んでやみません。選考委員の一人として、大豆たん白質研究の発展に寄与できるよう微力ながら邁進したいと存じます。

〈徳島大学医学部教授〉

  • 随想・雑感