随想・雑感

財団の発展を願って

理事 金森 正雄

 嘗て満州(中国の東北地方)にあった大陸科学院、満鉄中央研究所で、油糧、餌飼糧、肥料の素材種子として、大豆に関する栽培・育種・利用についての広範な研究が行われていた。高槻の京都大学の化学研究所においても、大豆たん白質の可塑材としての利用研究,紡糸して衣服を作る特許,大豆リン脂質を栄養剤として利用した資料があった。1960年シカゴのセントラルソーヤ社の研究所を訪ね、分離大豆たん白質を利用したソーセージ,チーズ,ヨーグルトなど加工食品を見て、大豆たん白質に関する基礎・応用研究の深さ、広さに驚き、興味を持った。

1979年に不二製油株式会社西村政太郎社長(当時)のご発案とご援助により、井上五郎先生を委員長とする大豆たん白質栄養研究会が発足し、研究会の一員に加えていただき、研究者として度々の研究助成に預かり感謝にたえない。大豆たん白質栄養研究会に始まり、大豆たん白質研究会に引き継がれ、1997年に待望の文部省所管の財団法人不二たん白質研究振興財団が設立され3年が経過し、目的に向かって順調に推移している。この20年間に500題を超える課題に研究助成され、その成果は、川村信一郎先生のご助力によりChemical Abstractに掲載されるようになって全世界に発信され、大豆たん白質に関する基礎・応用研究に対する貢献はもとより実用化にも多大の役割を果たしている。米国でもFDAが十数年前から大豆たん白質に関心を高め、昨年10月末には、「1日25gの大豆たん白質の摂取は虚血性心疾患のリスクの軽減に有効である」ことを認め、その1/4量の6.25gを含む食品についてその旨の表示を許可し、表示食品が店頭に並んでいる。

2年前の国連統計資料によると、世界人口上位5カ国は中国12億5000万,インド9億7000万,米国2億7000万,インドネシア2億400万,ブラジル1億6100万であり、人口増加率は5年間でそれぞれ5.0,9.8,4.8,9.0および6.7%で非常に高く、インドの人口は中国に次いで本年10億を突破した。北京で開催された第7回FANS会議(アジア栄養学会議)で中国の栄養・食糧関係者と中国国民のたん白質源について論議したところ、中国は効率の悪い動物性畜肉たん白質に依存することなく、将来にわたり植物性たん白質の豆が主流となるとのことであった。先進国の健康問題も含め、中国・インドおよび途上国の食糧問題、殊にそのたん白質源に大豆は極めて重要な役割を果たすものであり、本財団の研究助成の成果が期待される。

世界の耕地面積は約13億haで、過去40年間大きな増減はない。育種,農薬,肥料など様々な工夫努力によって穀物の生産量は2.5倍にもなり、20億tの生産を見ている。耕地のうち、2,800haに現在遺伝子組換え作物が作られ、その50%が大豆で、しかも生産地は米国,カナダなど先進国に限られている。将来の人口増と食糧生産量、殊にたん白質源としてのバランスの上で耐病虫害,耐雑草,たん白質の改良,機能性付与など様々な目的の遺伝子組換え大豆の栽培は増加が見込まれるが、消費者の抵抗は強い。将来にわたって、生態系,自然環境への影響研究を含め、安全性の研究など世界的視野での更なる研究も望まれる。財団では更に特定研究の応募と助成も計画しており、研究者から財団の活発な事業活動が期待され、その重要性がますます増大している。

西村理事長の20年にわたる大豆たん白質研究助成に対するご熱意、ご盡力、ご指導に加え、更には不二製油株式会社安井社長はじめ同社の方々の絶大な物心両面のご支援により初めて成し遂げられる研究助成事業であることは論をまたないところであり、感謝しつつ財団の益々の発展に微力ながら尽くしたい所存である。

〈京都府立大学名誉教授・武庫川女子大学名誉教授〉

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