随想・雑感

さらに高まる助成の役割

評議員 福場 博保

 古来代表的な日本料理の基本材料として米と大豆が挙げられてきた。割合動物性たん白質が少ない食生活であったにも拘わらず日本人が長年にわたって健康を保って生活できたのは、この米と大豆が互いに不足するアミノ酸を相補い栄養効果を高めることが可能であったからであろう。吉川誠次氏の著書によると、「大豆は中国東北地帯原産の豆であり、中国戦国時代に北方から中央地帯に齎(もたら)されたので異国産の豆という意味で戎菽(えびすまめ)といわれ、五穀に数えられるようになる」と記載されているが、いつの時代にどのようなルートでわが国に大豆が齎されたかについては記載がない。しかし延喜式に大豆に関する記載のあることが述べられているので、割合早く中国からわが国に齎され、活用されていたことは想像できよう。農耕を中心として生活してきた日本民族では、大豆がなかったとすれば、明治以降百数十年で今日のような文明開化の国として世界に活躍できる民族の潜在能力は培われてはこなかったであろう。大豆をわが国に齎してくれた人々に感謝したい。

 また最近では、カルシウム摂取が少ないにも拘わらず、欧米諸国の統計に比較して骨折率の低いことをジャパンパラドクスと呼んでいるが、これも大豆に含まれるイソフラボン化合物の効果であることで明らかにされており、これから本財団の研究助成による各種大豆がもつ生理活性に関する研究が進められれば大豆がいか程人類の健康増進に寄与しているかが明らかになることであろう。

 本財団は平成9年4月に設立されたばかりの財団であるが、その母体としての大豆たん白質栄養研究会および大豆たん白質研究会として20年近くも活発に活動を継続してきた歴史があり、昨年8月に行われた第一回研究報告会も今年行なわれた第二回研究報告会も盛会裏に終了し、内容充実した立派な第一回報告会記録も既に刊行され、研究助成財団としての輝かしいスタートを切られたわけで、今後更に発展されることを期待できよう。

 財団の名称は(財)不二たん白質研究振興財団であっても、この学問進歩の速い時代にあっては研究助成の対象を大豆をトータルに研究する研究者全てに拡大して頂けるものと財団関係者にお願いしたい。

〈お茶の水女子大学名誉教授・昭和女子大学短期大学部学長〉

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