随想・雑感

財団の業務にたずさわることになって

理事 櫻井 洸

 大豆たん白質栄養研究会設立に続き、不二たん白質研究振興財団法人とされました不二製油株式会社は、食用を主とした製油会社として戦後発足されたのであります。製油会社は当時既に数社があって、「後発会社としては他社と異なるものを生産せねばならぬ。」というのが西村政太郎氏の考えで、それ以来不二製油のフィロソフィーとなっているように思います。てんぷら油、フライ油、サラダ油等の液体油とは違って固体脂を重点に扱い、チョコレート、洋菓子用の油脂、マーガリン等の商品開発に力を注いでこられました。それらは油脂の分別結晶法によるフラクショネイション、酵素によるトリグリセリドのエステル基交換反応等、独自の新技術を開発しての成果であります。

 それに続くのが大豆たん白質および関連物質の高度利用による新製品の開発でありましょう。製油会社としては、一般に大豆油を目的とした油粕でありましたが、不二製油は人の栄養源、機能性食品をそれに求めて、油は高純度たん白質を得るのに抽出されているのです。日々の栄養源としての豆腐、がんも、ゆば、それに豆乳、ヨーグルト、チーズ等々に続いて、胚軸よりのイソフラボンをはじめとする有効微量成分、オカラよりの機能成分の応用、健康食品指向に期待されるところが大きいものがあります。そこで不二製油の理念の下で、大豆たん白質および関連物質について、学術的基礎研究の上に立った応用によってこそ新規発見があり人類社会に貢献し得る数々が生まれるであろうことを期して、研究会を継承・発展した研究振興財団を設立されたことであろうと考えます。

 私は油化学専攻でたん白質は専門外のため、理事就任へのおすすめに対してご遠慮申し上げるべく考えましたが、大げさにいえば学際的と申しますか、素人の考えを取り上げて興味ある結果を出していただいたことのあったのを思い出して、思い直した次第であります。すなわち17~8年も前のことになりますが、化学屋の立場からたん白質を見ますとこれは両性界面活性性状をもつ高分子化合物であります。したがって、適当な大きさに切断したぺプチドは摂取時すべて腸管でアミノ酸にまで消化され透過して体内に吸収されるものばかりではなく、界面活性性状をもつ低分子量のぺプチドは腸粘膜細胞に吸着しそのまま透過することはないかと、医学関係者に話をもちかけましたところ大いに関心をもたれ、動物個体からの腸管吸収、静脈栄養、細胞吸収の幅広い研究を行なっていただきました。その結果、栄養学的にもまた生化学的にも、いくつかの興味ある重要な問題が浮かび上がってきました。その第1の点は、ぺプチドの腸管における吸収は遊離アミノ酸と比較して決して劣っていないこと。さらにある種の疾患あるいは病態では、窒素源としてぺプチドの方がアミノ酸より勝ることが示されました。また第2に、ぺプチドの細胞内への吸収がペプチダーゼによる分解を介さないで直接行われることが、遊離肝細胞を用いて証明されました。第3には、静脈栄養としてのペプチド輸液が可能で、体内での吸収速度が一般に想像されるより著しく速いことが示されました。浸透圧、イオン強度の上昇が重要な問題であることが考えられ、ペプチド分子の普遍的な細胞吸収の可能性が示唆されましたが、実用化に対しては、生産技術の研究と相俟って今後の栄養応用、臨床の広い分野での展開に期待されるところであります。

 来世紀は複雑系の科学、非線形科学、カオスの科学の時代、さらには心の科学の時代といわれています。単に自然科学のみならず人文系も融合した学際的推進を強く望むものであります。

〈大阪大学名誉教授・前奈良先端科学技術大学院大学長〉

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